昨年12月から年初までの世界的な株価の下落を受け、世界の投資家は、先行きへの懸念を早く織り込みすぎた。そのため、売りすぎた株式ポジション(持ち高)の再構築などを理由に、株を買い戻す投資家が多いようだ。
重要なことは、米国が緩やかな景気回復を維持していることだ。ただ、未来永劫、経済が成長し続けることはあり得ない。昨年夏場以降、金の先物価格が上昇してきた背景には、先行きを慎重に考える市場参加者が着実に増えていることが影響しているようだ。
米国ジャンク債の国債に対する上乗せ利回り(信用スプレッド)は12月中旬の水準まで縮小した。英国のEU離脱(ブレグジット)の先行き不透明感など不確実性要因は多いが、先行きへの楽観は盛り返しつつある。
その中で冷静に認識しなければならないことは、世界経済の回復の勢いそのものが、徐々に弱まっていることだ。スマートフォン需要の減少は、米国をはじめ、世界経済にマイナスだ。また、米中の貿易戦争は、公共事業の一時中断などで減速し始めた中国経済の景況感を、さらに押し下げた。そうしたリスクが、日本の企業業績悪化などにも波及し始めている。
今、政策への期待は大きい。大統領選挙を控え、支持獲得のために、民主、共和党が歩み寄り、追加減税などの経済対策に合意する可能性はある。
加えて、FRB(連邦準備理事会)関係者が利上げの休止を重視し始めたことも重要だ。政策期待が市場参加者のリスクテイクを支え、新興国通貨も反発基調で推移している。当面、米国の景気が減速することは避けられないが、相応の安定感は維持できるだろう。ただ、2019年の後半以降、米国経済のピークアウト懸念などから減速が鮮明化する恐れがある。
今後の展開を考えたとき、金の先物価格(金価格)の動向は重要だ。金価格には、世界経済に関する投資家の慎重な考えが反映されてきたと考えられる。昨年8月、金価格は底を打ち、上昇基調で推移している。重要なことは、昨年秋口以降、米国の金利が上昇する中で、金の価格も上昇したことだ。これは、やや異例な動きである。
基本的に米金利が上昇すると金は売られやすい。金利上昇はドル買いにつながり、利息を生まない金の魅力は低下する。そのため、投資家の金保有動機は低下する。金利を生まない金の魅力は低下し、価格は下落してもおかしくはなかった。
そうならなかったということは、米国経済の先行き懸念が増えているということだろう。特に重要と考えられるのが、米国の政治リスクだ。金の保有動機を強める投資家にとって最大の懸念材料は、実務能力のないトランプ大統領だろう。トランプ大統領は、グローバル化の推進を重視した従来の米国の政治とは大きく異なる政策を進めている。
米中貿易戦争や中東政策などの不安が高まるにつれ、同氏の限界が明らかになるだろう。その結果、これまでの政治とはかなり異なる主張を持つ人物が支持を集め、大統領候補として注目される可能性もある。そうなると、米国経済の先行きは一段と見通しづらくなるはずだ。従来以上に政治が経済を圧迫するとの懸念は、徐々に増えているように思える。
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